音を楽しもう◎中兵庫の音楽人紹介

兵庫県の真ん中から、音楽人の情報を発信します。

伝統継承の一翼を担う津軽三味線界のエンターティナー◎吉川大山

こんにちは。中兵庫音楽人発信委員会ライターのあんこです。
少しあいだが空いてしまいましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?暑かった夏はどこへやら、すっかり寒くなりましたね。
今回は、竹山流津軽三味線奏者である「吉川 大山(だいざん)」さんをご紹介します。これまではアマチュアの方を紹介してきましたが、なんと吉川さんはプロの演奏者!ちょっとドキドキしながら取材に臨みましたが、とっても気さくで話しやすい方で、笑いの絶えないひとときとなりました。日本の伝統楽器・三味線の基本的な知識も少し交えながら、そのお人柄をご紹介してゆきます。

芸歴19年、竹山流津軽三味線継承の一翼を担う

f:id:eclaires:20191026130750j:plain

──今日は愛用の三味線を携えて来てくださった吉川さんですが、三味線とのつきあいはもう長いのですか?

吉川さん 芸歴19年になります。7歳から習いはじめ、小学5年のときに名取、中学で準師範となり、昨秋「大山」を襲名し師範に昇格しました。

──19年とは長いですね。多くの流派が存在する津軽三味線の中で「竹山流」という流派だとお聞きしていますが、弾き方にはどんな特徴があるのですか?

吉川さん 「竹山流」は初代高橋竹山の奏法を受け継いだ津軽三味線で、ひとことで言うと、おとなしい弾き方ですね。数年前ブームになった津軽三味線の兄弟ユニットがいましたが、彼らの奏法は“叩き三味線”と言って、激しく叩く弾き方です。一方、竹山流は“弾き三味線”と言われ、どちらかというと静かに余韻を楽しみます(と言って、実際に三味線を弾いて見せてくださいました)。

f:id:eclaires:20191026130752j:plain

──はあ~(感嘆のため息)。流れるような繊細なバチさばきですね。余韻を楽しむというのは、日本ならではの弾き方のような気がします。“叩き三味線”より静かと言えども、やはり迫力満点ですね。お恥ずかしながら三味線の曲は詳しく知らないのですが、演奏会や公演では流派の曲を演奏されるのですか?

吉川さん はい、じょんから節や民謡などさまざまです。竹山が作った曲を継承してゆくのがぼくたちの使命ですね。流派によって指の使い方が違うのは当然ですが、竹山流の中でも、弦をすくう、はらうの組み合わせによって弾き方が変わります。

──ただ弦をはじくのではなく、細かい一連の動作が力強い音を生み出すのですね。こんなふうに間近で指使いを拝見することがないので、とっても貴重です。


出合った瞬間からいつもそばに三味線が

──竹山流継承の一翼を担う吉川さんですが、三味線をはじめたのはご家族やまわりの方の影響だったのですか?

吉川さん いえ、まったく無知からのはじまりでした。ただ、ぼくの地元多可町には「播州歌舞伎」という伝統芸能があり、小さい頃から三味線や和太鼓など和楽器の音に親しんでいたので、日本の伝統や和楽器に興味はありました。牛乳パックを重ねて作ったイスを和太鼓代わりにして遊んだりしていましたね。三味線と出合ったのは7歳のとき、西脇での演奏会でした。出演されていた津軽三味線奏者の演奏に衝撃を受けたんですよ。ひとりで弾いているのに何人もで演奏しているかのように音に立体感があり、一瞬で引き込まれました。今でも鮮明に覚えています。

f:id:eclaires:20191026130802j:plain
材質は、硬く重厚なインド産の紅木(こうき)。修理のために分解できるようになっている。弦は絹、糸巻きは象牙、駒は煤竹で作られている。


f:id:eclaires:20191026130806j:plain
バチは亀甲、持ち手は水牛のツノ。三味線はメンテナンスをしっかり行えば一生ものなのだそう。


──幼少期から和楽器伝統芸能に接する機会が多かったのですね。そして、吉川さんを三味線の世界へと誘ったのはその奏者さんだったと。ピアノやギターではなく和楽器に惹かれるとは、渋い子どもでしたね(笑)

吉川さん そうですね。演奏を聴いて自分も弾いてみたいという思いがあふれてきて、そのあとすぐに買いに行ったんです。

──えっ!? さっそくに三味線を買ったんですか!?

吉川さん はい(笑)。ぼくが弾きたいと言うと、母も直感でこの子はできると思ったようで。まだ先生も探していないのに先に三味線を買うなんて、免許を取っていないのに車を買うようなものですよね(笑)

──すごい行動力ですね!その一度の演奏で一気に三味線の魅力に引き込まれたんですね。お母さまも我が子のやりたいことを尊重する理解のある方ですね。それで、そのあと先生は見つかったんですか?

吉川さん 楽器屋さんの紹介で、丹波にお住まいの高橋昌山(しょうざん)師匠という方に弟子入りしました。この方が高橋竹山の孫弟子だったので、自ずと竹山流を習うことになりました。おもしろいことに、ぼくが衝撃を受けた奏者さんも同じ竹山流だったんですよ。

──そうなんですか。それってなんだか運命的!そこからお師匠さんについてずっと習ってこられたのですね。でも、長くやっていると、途中でやめたいとかほかの楽器をしたいと思うことはありませんでしたか?

吉川さん もちろん、うまくいかなくて落ち込むこともありました。でも、三味線から離れることはなかったですね。子どもの頃は、みんながやっているようなテレビゲームなんかよりもおもしろくて、ずっと弾いていました。中学のときに入院していた時期があったんですが、退屈でね(笑)、入院生活にストレスを感じていたんですが、そんなとき母が三味線を持ってきてくれたんですよ。病院の先生たちも弾いていいよと言ってくれて。病院で練習してましたね。

──入院中にも三味線を弾いていたなんて、本当に好きだったんですね。

吉川さん そうですね。それに、少しでもブランクがあると弾けなくなるんじゃないかとこわかったのも事実です。

──なるほど。三味線は吉川さんの分身のようなものですね。


演奏とトークでおもてなし

f:id:eclaires:20191027171038j:plain

──7歳からずっとそばにある三味線ですが、はじめての舞台は覚えていらっしゃいますか?

吉川さん もちろん。初舞台は8歳のとき、地元の観月会で、師匠とともに舞台に立ちました。それ以来観月会には毎年出演していて、ありがたいことにお馴染みになっています。

──ということは、今年で19回目!みなさん楽しみにしていらっしゃるのでしょうね。公演は地元はもちろん県外などでも?

吉川さん はい。月に数回、自主公演で県内外をまわっています。あちこち動くので音響設備も自分で準備してるんですよ。今後は海外での演奏も視野に入れていきたいですね。

──演奏だけでなく音響までも!演者と裏方どちらもこなせるんですね。公演では、いつも心がけていらっしゃることなどはありますか?

吉川さん やはりお客さんに喜んでいただけるのがいちばん。お客さんも自分も一体になって楽しめる演奏、そしてトークを心がけています。実はね、ぼくはおしゃべりが好きで、師匠や仲間からは“竹山流の噺家”と呼ばれてるんですよ。

──あら、そうなんですか。さきほどからお話をお聞きしていて話しやすいなあと思ったのは、それでだったんですね。私が聞き出す役なのに、吉川さんのおしゃべりが心地よくて、つい聞き入ってしまっていました。

吉川さん 演奏だけだとお客さんも退屈してしまうので、やはり楽しんでもらうにはトークも大切。トーク8割、演奏2割といったところでしょうか(笑)

──あれ、演奏が少ない(笑)。でも、吉川さんの聴き手へのおもてなしの気持ちが感じられます。海外進出も含めてこれから期待が高まりますね。昨年秋に師範になられたとのことですが、お弟子さんもすでにいらっしゃるのですか?

吉川さん はい、います。ただ好きでこの世界に飛び込んだ頃はこんなふうになるとは思ってもみませんでしたが、よい師匠と仲間に支えられて楽しみながら演奏しています。

──三味線が好きという気持ちと、吉川さんの努力のたまものでしょうね。最後に、吉川さんにとって三味線は分身のように身近なものだと思いますが、三味線をあまり知らない方に向けてのメッセージなどはありますか?

吉川さん 三味線は動画ではなく生の音を聴くと、やはり響くものがあります。実際に演奏を聴いてもらうことで、珍しい楽器ではなく日本の身近な楽器だということを知ってもらいたいですね。また、何歳からでもはじめられるので、興味があればぜひチャレンジを。

──吉川さん自身が過去に体験されたように、吉川さんの演奏を聴いて津軽三味線の世界に飛び込む人が、これからきっと出てくるのでしょうね。


インタビューを終えて

三味線は日本古来の和楽器。敷居が高いというイメージは正直私も持っていましたが、さすが“竹山流の噺家”と言われるおしゃべり上手な吉川さん、そのトークと演奏で、ムクムクっと三味線への興味が湧いてきました。みなさんも、まずはその奥行きのある音色を味わってみてはいかがですか?


●吉川大山さんの情報はこちら
Facebook
https://m.facebook.com/daigoro.yoshikawa.56#_=_

演奏映像
https://youtu.be/W-a0bqdW3xA
2017年に丹波の森公苑で行われた「つがるの風コンサート」の演奏風景。


〇今後の更新について
こちらで準備が整い次第、順次掲載していきますので、楽しみにお待ちください。また、取り上げてほしい“ 音楽人”を募集していますので、お気軽にDMまたはホームページからご連絡くださいね☆


〈取材・文/中兵庫音楽人発信委員会&ライター あんこ〉


こちらもチェックしてね!
■中兵庫音楽人発信委員会HP
https://rpmb09143.wixsite.com/nakahyougo
オリジナルグッズ販売中!

■エクレアーズ軽音楽サークル LINE@
https://line.me/R/ti/p/%40xhm7961k